2022/5/20
求めるのは「経済価値の最大化」 日本型SaaSの答えがここにある
NewsPicks Brand Design Senior Editor
日本最速でARR10億円に到達する──。
SaaSビジネスにおいて、とくに重視される指標ARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)の成長スピードが日本で最も速いのでは、と囁かれるスタートアップ、それが「FLUX」だ。
「300社くらいを見ているが、その中でも最速の成長規模」と、同社の社外取締役を務め、国内外のSaaSスタートアップに精通するDNX Venturesのマネージングパートナー・倉林陽氏も、彼らの勢いには舌を巻く。
創業時に軸となったサービスはアドテクノロジーだったが、現在では広告収益の最大化だけでなく、アナリティクス、セキュリティ、CMSなど、ウェブサイトに関わるすべてのタッチポイントにおいて最適なカスタマージャーニーを実現するプラットフォームへとその射程を拡大している。
壮大かつ、戦略的な事業拡大の歩みについては、のちほど仔細を紹介したいが、まず成長の軌跡をご覧���ただこう。
創業4年ながら、導入実績は1100社以上。猛スピードで市場を捉え、その勢いは一層増している。チャーンレート(解約率)も月次0.2%と非常に低い数値を保つ。
顧客のラインナップも多彩で、FNNプライムオンライン(フジテレビ系列)や東洋経済オンライン、AERA dot.など、大手メディアや巨大サービスが名を連ねる。
ほか、誰もが知る大手通信キャリアのスマホサイトや国内最大規模のECモール、有名レシピサイトなどもFLUXの顧客だというから驚きだ。
これまでFLUXは、大規模なマーケティングやプロモーションをしていない。
にもかかわらず、なぜ創業4年のスタートアップが、大手企業を“虜”にしているのか。
永井元治CEOにまず、素朴な疑問をぶつけた。
ひたすら突き詰めたのは「経済価値の最大化」
永井 それは、導入効果が極めて明確だったからでしょう。
創業1年目から、大手ECサイトやテレビ局、レシピサイトなど、エンタープライズ企業が次々と導入を決めてくれました。
当時、我々が営業の際に伝えていたのは「タグを入れるだけです」「売上がすぐ上がります」「運用コストを抑えられます」。
シンプルなこの3つのメッセージだけ。
誰もが簡単に導入でき、すぐ「効果が出る」ツールだった点に、選ばれてきた理由があるのだと思います。
慶應義塾大学法学部法律学科卒。米系戦略コンサルのベイン・アンド・カンパニーにて、大手通信キャリアの戦略立案・投資ファンドのデューデリジェンス・商社のM&A案件などに従事。2018年に株式会社FLUXを創業。
我々がプロダクトを作る際には、グローバルのマーケットを徹底的にリサーチします。
世界的には常識でも、日本で使われていないものはたくさんある。
創業時のメインサービスだった「広告収益最大化(ヘッダービディング)」ツールもその一つでした。
合理的に考えれば絶対使った方が成果は上がるのに、日本では普及していない。それはなぜなのか。
逆算で考えていくと「使うのが難しい」という課題に行き着くんです。
IT化が進み、世界の最新のテクノロジーやツールにも、すぐ触れられるようになりました。
しかし、当時、私の周りにいたアーリーステージの起業家たちは、「社内にツールを入れるだけで大変だ。運用できる人がいない」と口を揃えていました。
相対的にITリテラシーが高いはずのスタートアップでさえツール活用に苦労しているのであれば、大企業や中小企業ではもっと大変なはず。
さらに日本は、ジョブ型雇用の欧米に比べてメンバーシップ型がまだまだ根強く、ジョブローテーションによって異職種への異動が起こります。
創業時の主要顧客だったメディア企業でも、番組や記事を作っていた方が、いきなり「明日からデジタル広告やってね」と言われるケースは少なくありません。
海外製の難しいツールを、急に使いこなせと言われても無理がある。
SaaS市場には「ノーコード」を謳うサービスも増えていますが、やはり運用が必要になります。
そうした背景から、より簡単であることを突き詰めた“日本型SaaS”に勝ち筋がある、と「ノーオペレーション」で導入コストをほぼゼロにする、私たちの強みに行き着きました。
誰もが最速で「80点」を取れる世界へ
導入が簡単で、かつ、売上にすぐ直結する。
この思想は、現在もすべてのプロダクトに共通したテーマです。
たとえば、メディア運営であれば、コンテンツの工夫によってPVを伸ばすといった“本業”に集中すべきでしょう。
ツールを“使う”ことに、パワーを割くべきではない。目的は成果を出すことですから。
我々のあらゆるプロダクトの納品物は、「一行のタグ」これだけです。
「御社のエンジニアに、『このタグをサイトに入れてください』とお伝えください」
極端にいうと、我々のサービスによって成果を出すために担当者にしていただく作業は、たった一つ。
ウェブサイトにタグの導入さえできれば、当社のプラットフォームで、お客様のサイトの情報が見える化され、難しい運用をしなくてもコンテンツや広告がどんどん最適化されていきます。
もちろん企業や事業によってウェブサイトが果たす役割は異なり、企業サイトやメディア、ECサイトなど、規模も大小さまざまなものがあります。
しかし、「どう売上を上げるか」「どうコストを下げるか」が、ビジネスの目的である点は企業の事業や規模によって変わることはありません。
結局、どうしたら一番効率よく売上に結び付けられるかがビジネスの本質になる。
サイト運営でまず大事なのは、できるだけ早く80点を取りにいくことです。
100点、120点を目指すためには個社へのカスタマイズが必要になってきますが、最小の努力で80点が取れるのであれば、パワーをかけて100点を取るよりもいいよね、というのが我々の考え方。
自社らしい成果を追求する残りの20点分は、社内の優秀な方たちにぜひ進めていただきたい。
でも、80点にするところまでは、社内の貴重なリソースを割く必要はないんじゃないかな、と。
最短で成果を上げるための部分はできるだけ自動化したい、と、サービスにかかわる導入や運用の手間を最小限にしてきました。
次なる射程は「DXP」すべてのタッチポイントをカンタンに
我々のプロダクトの根幹には、独自のユーザーidシステムがあります。
この分野ですでに特許も取っていますが、ユーザーidを使って最も早く成果をお客様に返せる領域はどこかと突き詰め、まず広告最適化の領域で創業しました。
しかし、当時から、広告最適化という狭い領域にとどまらず、複数事業で柱を作っていくことが絶対に必要だと考えていました。
まずはとにかく目に見える形で一つ絶対に勝ち切れる市場を取ろう、と。
「収益がこれだけ上がります」と、導入による効果が明確なので、マーケティングに力を割く必要もなかった。
その後、お客様の声に応えながら、アナリティクスツール、データソリューション、サイトセキュリティーツール、ユーザー可視領域調査ソリューションなど、サービスを増やしてきました。
そういった経緯を経て、我々が現在メインプロダクトとして展開しているのは、「デジタルエクスペリエンスプラットフォーム(Digital Experience Platform:DXP)」です。
FLUX Digital Experience Platformは、「ユーザーにとって最適なコミュニケーションを行うことで、顧客の経済的価値を最大化する」プロダクトです。
FLUXには、創業期から膨大なデータを処理することで精度を高めてきた独自のユーザーidがあります。
このidに対して、機械学習によって類型化された顧客の興味関心データを紐づけ、ユーザー体験を一気通貫で最適化できるのです。
コミュニケーション・データ・CMSなど、ユーザーのデジタル上のタッチポイントを統合し、最適なカスタマージャーニーを実行するために必要なポイントを「面」で見ることができる世界がFLUXのDXPが目指す場所。
対象となるのは、エンタープライズ企業だけでなく、ミッドマーケットからSMB(Small and Medium Business)まで、ウェブサイトを持つすべての企業群になります。
また、ウェブサイトがないお客様に対しては、「FLUX CMS」でウェブサイトを作成するところから入り、その後のデータ収集や最適化の部分もサポートしていきます。
自社の成果を最大化するバリュー
繰り返しますが、私たちの成長のドライバーの一つは顧客の「経済的価値の最大化」を突き詰めてきたこと。
そして、二つ目は、バリュードリブンの組織運営にあると考えています。
FLUXでは、バリューを軸とした評価���度を導入しており、バリューを実践すること自体が組織の成長、つまり我々自身の経済価値の最大化につながるように設計を進めてきました。
バリューを全社共通の軸として持つことで、意思決定のブレがなくなり、誰でも同じクオリティを提供できるのが、私たちの強み。
そして、大切にしているのは、実践しながらフィードバックを得ていくこと。
頭である程度考えたら動こうという姿勢が、事業をどんどん広げていく上での、すばやい意思決定につながっています。
社内では、経営陣のみならず、すべてのレイヤーのメンバー間において議論がいつも活発です。
誰が言うかではなく、正しいことを言った人が正しい。その人が築いてきた考え方を尊重していこうというカルチャーがあります。
従業員数は、2021年の1年間で3倍以上増え、現在は114名と組織が急拡大していますが、創業からの離職者は数名のみ。
eNPS(従業員満足度)についても高い数値が出ているので、バリューベースの採用が、強い組織力につながっていると感じています。
ただ、複数事業を手掛けていく上で、マネージャー人材と開発メンバーがまだまだ足りていません。
プロダクトはゼロイチフェーズのものから成熟期にあるものまでさまざまあり、それぞれの経験や身につけたいスキルに応じ、多様な経験ができるのが今のFLUXです。
高いレベルでDXPを実現するためには、やらなくてはいけないことが無限にあります。
今のFLUXができているのは、まだ理想の1%ほど。言い換えれば、100倍の伸びしろがある。
デジタルマーケティング領域のトータルプラットフォーマーになるべく、必要なピースを一つひとつ埋めていく気持ちで進めています。
DXPという大きなテーマ、長期的なビジョンを見据えながらも、「経済的な価値を最大化する」という軸はぶらさずに、目の前のプロダクトをしっかり作り上げていく。
クッキーが規制された今、ユーザーidが持つ可能性は、この領域において甚大です。
日本における真のDXは、ツールを導入するだけではなく、その効果を企業が体感することで進んでいく。
あらゆる企業が、ビジネスの成功へ自動でつながる世界へ。
どのようなサイズの企業でも使いやすい、「日本式」のプロダクトの在り方を追求することで、引き続き日本企業の経済価値の最大化に貢献していきたいと考えています。
執筆:田中瑠子
写真:竹井俊晴
デザイン:田中貴美恵
編集:樫本倫子