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CERN(欧州原子核研究機構)と「Quantum × Blockchain」の次世代インフラを研究

2018年3月6日(火)

なぜ CERN なのか

現在のインターネット社会は、間違いなく、WWW(World Wide Web)から始まっています。

1989 年 CERN は WWW を考案。1993 年 CERN は WWW を全ての人に無償で利用可能にすることを発表。

インターネットの次のインフラも CERN から生み出されるべきと考えました。「Internet」to「Quantumnet」

Quantumnetとは

インターネットの再来と言われる Blockchain と、従来のコンピューターとは一線を画す性能を持つ量子コンピューター。これらを組み合わせることで実現される次世代インフラが「Quantumnet」です。

量子コンピューターは様々な分野への応用が期待されていますが、情報産業全体を考えた場合、演算処理(CPU)以外にもデータストレージや通信技術が必要であることを忘れてはなりません。量子コンピューターは主に演算処理と暗号化した通信の技術であるため、データストレージやその他の通信技術は別途必要だということです。そのため、外部に量子情報を取り出して保持したり、遠距離通信に応用しようとした場合、既存の技術をそのまま用いると、せっかくの量子コンピューターの性能を十分に活かすことが難しいと予想されます。実際、通信技術に関しては、インターネットにおいて既にボトルネックになりつつある通信帯域の問題を解決するのは必須となるでしょうし、ストレージに関しては、量子暗号による強い暗号化を生かすためにデータを厳格に守ることは必須となると考えられます。これらを加味すると、将来、量子コンピューターを前提とした全く新しいインフラの構築が求められると予想されます。

一方 Blockchain は、インフラ構築にあたって必要とされる通信とデータストアの両方に関わる技術であり、既に世界規模の分散型ネットワークが構築されているという実績もあります。 Blockchain と量子コンピューターの連携についての研究は、量子コンピューターを前提とした次世代のインフラ構築に直結すると考えています。

Blockchainと量子コンピューターの相性

Blockchain と量子コンピューターは共に演算処理速度や暗号というキーワードに深く関わっています。一方、同じ分野の技術であっても既存の Blockchain が使用している技術と量子コンピューターの技術は、速度やセキュリティ以外にも大きく異なっています。そのため、両者の足りない部分を補い合うことで大きなシナジーを生むことができると考られます。

例えば、現在の Blockchain が用いている暗号技術は「後から任意の第三者が検証可能」という特徴を持ちます。この性質により Blockchain は衆人監視の下に不正なく安全に運用することができるようになっていますが、一方でこの性質は情報の秘匿を難しくしています。そのため、現在の Blockchain ではデータの閲覧に対しアクセス権を設定することが難しくなっています。

対して、量子暗号は物理法則によって1 回しか観測できないことが保証されています。これは強力なアクセス権がかかっている状態であり、旧来の暗号技術では実装が難しかった新機能を Blockchain に付与できる可能性を秘めています。同様に、量子コンピューターの使用する qbit は 1 回しか観測できないという性質上、データの保存や冗長化が困難です。必然的にデータの保存は旧来の技術を用いることになりますが、この保存したデータの改竄や喪失はセキュリティホールになります。Blockchain はデータを保存可能な技術の中で、データの改竄に強く、冗長化が容易な技術です。

このように、Bockchain と量子コンピューターはそれぞれの機能を補完することで大きなシナジーが期待できます。

しかし、現在の Blockchain が使っている技術を、似た名前の量子コンピューターの技術で安直に置き換えることは危険が伴います。

例えば、Blockchain では電子署名の技術が多くの箇所で使用されます。ここで、電子署名の各種特徴は Blockchain のデータ構造、P2P を用いた冗長性、コンセンサスアルゴリズム、データのロック機構、マルチシグなどと深く関わっています。そのため、ここで既存の暗号技術と異なる量子暗号を用いると、Blockchain 全体に影響を与える可能性があります。一般にシステムのセキュリティは全体の一番低い所で決まるため、電子署名のセキュリティが上がったとしても、Blockchain 全体のセキュリティは落ちる可能性があります。

このように、現在の Blockchain の機能の一部を量子コンピューターの技術で単純に置き換えることはできませんが、両者の足りない部分を補い合うことで生まれるシナジーは非常に大きいという関係性があります。

何をしていくのか

まず初めに行うことは、Quantum と Blockchain による次世代インフラを議論する有識者会議体「Table Unstable」の立ち上げです。

「Table Unstable」立ち上げに関する電通国際情報サービスとの公式プレスリリース
https://www.isid.co.jp/news/release/2018/0306.html

「Table Unstable」の役割・機能は以下を想定しています。

  • 世界中から選ばれし研究者達が化学反応を起こす「場」(コラボレーション)
  • 研究成果の発信、評価、ブランディングの「場」(アウトリーチ)
  • 基礎研究でも資金を集められる「場」(ICO、DAO)
  • 研究情報の共有、知的財産管理ができる「場」(オープンイノベーション)
  • 次世代研究者を育む「場」(オープンエデュケーション)

「Table Unstable」は基礎研究におけるこれら「人」「金」「情報」「評価」の新しい常識が生み出される「場」であり、今の世界の構造では解決されない問題をサイエンスとテクノロジーで解決する「場」です。

シビラの役割は、

  • CERN、イノラボと共に「Table Unstable」を運営する
  • 「Table Unstable」に Blockchain の有識者として参加する
  • 「Table Unstable」自体の役割・機能を Blockchain で構築する
  • 「Table Unstable」に集う研究者と「Quantum × Blockchain」の共同研究を行う

最後に

JST「さきがけ」採択研究者であり、セキュアクラウド量子計算研究の第一人者京都大学 藤井啓祐 准教授

JST「CREST」採択研究者であり、メディアアーティストでもある、現代の魔法使い筑波大学 落合陽一 准教授

このような方々と未来を共創できることが楽しみです。

「新しい常識を創る」

2018年3月
Co-Founder & CEO 藤井隆嗣
Co-Founder & COO 篠原ヒロ
Co-Founder & CTO 流郷俊彦

< 関連リンク >

電通国際情報サービス公式ページ
https://www.isid.co.jp/news/release/2018/0306.html

日本経済新聞 電子版
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27707700V00C18A3TJ1000/

イノラボ公式ページ
http://innolab.jp/news/1055