ビニール傘、捨てられた後はどうなる? 「処理業者の中でも嫌われ者」「ビニ傘買うのやめた」の声も

急な雨も多い時期。日頃から折り畳み傘を持ち歩けばいいものの、荷物になってかさばるし、つい忘れてしまうことも……。

雨の中コンビニに駆け込み、ビニール傘を購入して凌ぐ人も多いだろう。

便利で気軽に手にすることができるビニール傘だが、環境にはどのような影響を与えているのだろうか。最近広まっている取り組みとともに紹介する。

「傘大国」の日本。年間購入量は1億2000万本以上

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Getty Images / chuanchai

日本で1年間に消費される傘の数は、なんと1億2000~3000本にも上ると言われている。日本の人口は約1億2000万人なので、日本人全員が1年間で1本以上傘を購入していることになる。

そのうちの6割にあたる約8000万本は、ビニール傘だ。「気が付くと自宅の傘立てにビニール傘が何本も……」という人も、少なくないだろう。

ビニール傘はどこでも入手できる手軽さが売りだが、一般的に「長く使う」よりも「使い捨て」という感覚が強い。強風などで傘の骨が折れてしまっても、値段や手間を考えると修理をすることはあまり選択肢に入らず、一度使用しただけで捨てる羽目になることもある。

また、最終的に“忘れ物”が行き着く警察に届けられる傘は、1年間で約25万本にも及ぶというが、傘以外の遺失物の回収率は約42%なのに対して傘はわずか1.4%。その中でもビニール傘の受け取りに行く人は殆どいないだろう。

持ち主のもとに戻らなかった傘はほぼ廃棄されているという。

ビニール傘は"嫌われ者"?

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「ビニール傘は長く使うものではない」「使い捨てるもの」と認識している人が多いのが現状だ。デザイン面でみても画一的で愛着を感じにくく、電車やお店には置き忘れたビニール傘が大量に溜まっていることも。

Getty Images / Hilda Handa

「ビニール傘は、産業廃棄物処理業者の中でも嫌われ者です」

こう話すのは、産業廃棄物処理業に長年携わり、現在はごみ問題を正しく学ぶためのコミュニティ「ごみの学校」の運営を行う寺井正幸さんだ。

ビニール傘は、ビニールと柄の部分のプラスチック、骨組みの金属で構成されている。それぞれの素材をバラバラにすればリサイクルできないことはないが、分解しやすいように設計されていないことが多く、いかんせん手間がかかる。そのため、そのままの状態で捨てられることがほとんどだ。

捨てられたビニール傘は、廃棄された場所や回収された組織によって、産業廃棄物処理業者に渡るか自治体のごみ処理場に渡るかなど、ルートが分かれる。

「民間の産業廃棄物処理業者にたどり着いた場合は、一度傘を破砕して、その中から金属を拾い上げ、それらをリサイクルすることもあります。

しかしプラスチック部分はさまざまな素材が混ざっているため、取り出してリサイクルをしても粗悪な質のプラスチックにしかなりません。

結果、利用価値が低く“厄介者”とされて、(プラスチック部分も)焼却処理されることが多いのが現状です」(ごみの学校・寺井さん)

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Getty Images / CAPTAIN_HOOK

一方で、家庭から燃えないごみとして廃棄されたビニール傘は、自治体の処理場に届く。その後、最終処分場で埋め立て処理されることが多いという。

「民間企業は、利益を得るためにできる限りの方法で資源を回収しようとしますが、自治体はそこまで手が回っていないところが多いのが実情です。

焼却処分をした場合、その熱エネルギーを別の箇所に利用するサーマルリサイクルは叶いますが、埋め立ては何も生み出しません。ただ“捨てるだけ”なのです」(ごみの学校・寺井さん)

埋め立て処理は、地球にとっても持続可能性が極めて少ない処理方法だ。環境汚染につながる可能性もある。その上、もしかすると別の素材に生まれ変わるかもしれなかった貴重な資源を、そのまま廃棄してしまうことになる。

傘のレンタルサービス。利用の実態は?

傘にまつわる状況に、一石を投じるサービスもある。

都内を中心に全国1600箇所にレンタル傘を置くスポットを設けている、日本初の傘のシェアリングサービス「アイカサ」がその一例だ。

図1

アイカサは、アプリをダウンロードし、使い放題で月額280円、もしくは24時間140円で傘をレンタルできるサービスだ。貸し出しスポットは駅やコンビニ、飲食店、オフィスなどに設置されている。

アイカサ

アイカサを運営するNature Innovation Groupでマーケティングと広報を担当する黒須健さんは、利用実態についてこう話す。

「アイカサのスポットの中でもっとも利用者が多い場所は、駅です。

次点で、マンションやオフィスビルなどが続きます。生活の導線上にあるスポットがよく利用されている傾向があります」(アイカサ・黒須さん)

図2

2023年には、BEAMS COUTUREとコラボレーションをした、使用済みジップロックをリサイクルしたユニークなデザインのシェア傘でも話題を集めた。

アイカサ

使用したユーザーからは「ビニール傘を買わなくなった」という声も上がっているという。

黒須さんによると、ビニール傘を作るために1本あたり692グラムのCO2が排出されているという。仮に冒頭で紹介した、日本で年間に消費されるビニール傘8000万本がすべてシェア傘に置きかわれば、膨大な量のCO2を減らすことができる。

「アイカサが提供する傘はカーボンファイバーを用いていて、風などにも強い作りになっています。

パーツごとに修理ができる仕組みにもなっていて、万が一壊れてしまった場合は、一つずつ直して再度スポットに置かれます」(アイカサ・黒須さん)

壊れないように強化すること、壊れた際に直しやすい仕組みにすることで、傘自体が長く使えるように工夫されているという。

端から見ると借りるだけ借りてスポットに返さない人もいるのでは……とも考えられるが、利用者の中でそのような人は少なく、むしろ雨が上がって傘が不要になった際に、駅前などのスポットに返却できて便利だという声があると話す。今後はスポットをさらに広げ、「使い捨て傘ゼロ」を目指していく考えだ。

愛着を持つための一工夫を

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Getty Images / Elena Gurova

これまで“使い捨て”のイメージが強かったビニール傘に対して、消費者である私たちはどんなことに配慮すればよいだろうか。寺井さんは「どんなモノでも長く大切に使うことが第一」としながら、気をつけるべきことを教えてくれた。

「私たちはよくごみ問題に向き合うとき、“蛇口を締める”と言います。

ごみを出さないためには、そもそも社会に出回る量を減らすことが重要です。

個人ですぐにできることとしては、傘を買う時は、素材やデザイン、耐久性など加味して、長く使えそうなものを選ぶことです。余裕があれば、どんな工程で作られているかなどを調べてみるのもよいでしょう。

また、ビニール傘はデザインも似ていますし、愛着を持ちづらいプロダクトだと思います。

自分だけの目印になるようなお気に入りのキーホルダーなどをつけたり、お子さんであればポスカで自分の傘に絵を描いたりして、『捨てにくい』『大事にしたい』と思える要素を加えるのもおすすめです」(ごみの学校・寺井さん)

物を長く愛すための工夫と、いざというときのレンタルサービスを組み合わせれば、急な天候の変化があっても環境にやさしい行動ができそうだ。


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