「Galaxy AI」を大きくアピールするサムスン電子社長兼MX事業部長のTM Roh氏。
撮影:山根康宏
サムスン新製品の真の主役は「AI」、そして「指輪」だ。長年スマートフォン業界を取材している筆者は、サムスンが7月10日にフランスパリで開催した新製品発表会を取材してそう感じた。
サムスンはスマートフォンにAIを統合することで、生産性や日常生活を支援するだけではなく、ウェアラブルデバイスを通して人々の健康的な生活サポートまでを提供しようとしている。
グーグル、マイクロソフト、そしてアップルもAIを使った機能拡張を急ぐ中、「AIスマホ」を最も早く発表したサムスンは、AIがカバーする範囲を広げることで他社へのリードを広げる考えだ。
AI機能はグーグル「Gemini」と協業
グーグルとの協業でAI機能を強化。
撮影:山根康宏
サムスンは2024年1月に発表したスマホ「Galaxy S24」シリーズにAI機能「Galaxy AI」を多数搭載した。
Galaxy AIはグーグルと協業しており、グーグルの生成AI「Gemini」をベースにサムスンが自社製品向けにカスタマイズしている。具体的な機能は例えば以下のとおり。
- オフラインでも使える対面型の通訳機能
- 電話の通話時にお互いの言語にリアルタイムで変換してくれる翻訳機能
- 長い文章を短いテキストに要約する機能
- チャットで送るテキストをカジュアルやフォーマルなど複数の文体に変換する機能
- 不要なオブジェクトを消して背景を自動生成する画像加工機能
また、グーグルがPixelで搭載している写真や文字を指先やペンで囲うだけで検索できる「かこって検索」もいち早く採用している。
ラフなスケッチ(左)から生成AIが清書してイラストにしてくれる(右)。
撮影:山根康宏
なおサムスンの1月の発表後、マイクロソフトが5月に「Copilot+PC」、アップルが6月に「Apple Intelligence」として生成AI機能を発表している。
例えば、Copilot+PCでは手書きのラフスケッチからきれいな絵を生成する機能を搭載しているが、サムスンも今回の新製品で同じ機能を発表した。
生成AI機能の進化は今後各メーカーが同じ方向で強化させていくだろう。
わずか3gの指輪「Galaxy Ring」
24時間生体データを取得できるGalaxy Ring。
撮影:山根康宏
サムスンは、ウェアラブルデバイスの新製品でAIの活用エリアを広げようとしている。そのキラー製品となるのが指輪型のデバイス「Galaxy Ring」だ。現時点では日本での発売は未定。
Galaxy Ringは指輪の内側に3つのセンサーを搭載し、心拍数、運動データなどを測定できる。
スマートウォッチほど高性能ではないが、日常生活の生体データとして必要十分な値を常に記録できる。重量は約3gと軽量で、装着感も違和感はなかった。
3gと軽量のGalaxy Ring。1週間連続使用が可能だ。
撮影:山根康宏
Galaxy Ringはサムスンのヘルスケアアプリ「Samsung Health」でデータを記録・管理できる。
同アプリはスマートウォッチとも連携可能で、運動量からのカロリー計算、睡眠時間やパターンからの睡眠スコアの算出などができる。
睡眠の質を解析する「sleep AI algorithm」、そのデータや運動量から健康状態をスコアにする「Wellness Tips」、運動スケジュールを通知する「Inactive Alert」など高度なヘルスケア機能にもAIが活用されている。
Samsung HealthはAIを活用したヘルスケアアシスタントになる。
撮影:山根康宏
Ringはスマートウォッチの弱点を克服したヘルスケア製品
サムスンのスマートウォッチでも運動や睡眠量の計測は可能だ。今回も「Galaxy Watch Ultra」と「Galaxy Watch 7」が発表され、サイクリングに対応するなどワークアウト機能の強化も発表された。
だが、Galaxy Ringはスマートウォッチにはない大きな利点がある。それが本体サイズとバッテリー容量だ。
幅約7mmで軽量のGalaxy Ringは指先に付けたまま不自由なく日常生活を送れる。
夏の暑い日にスマートウォッチをはめていると、汗をかいてしまい腕から外すこともあるだろう。またシャワーの時にもスマートウォッチを外す人も多い。
なにより、一般的なスマートウォッチはバッテリーの持ちが短いため、数日おきに腕から取り外す必要がある。
帰宅後にバッテリーが切れてしまえば、夜中に充電することになり腕から外して就寝するので、睡眠データを記録できない。
高性能なスマートウォッチ「Galaxy Watch Ultra」だが、電池の持ちは数日だ。
撮影:山根康宏
Galaxy Ringのバッテリーは7日間使用できる。決済機能やアプリ機能も無いため極端にバッテリー寿命が短くなることもない。
つまり、充電に必要なため指から取り外すのは1週間に1度だけでいい。
本体はIP68の防水防じんに対応しており、5%の海水中でも10気圧防水に対応するので、ウォータースポーツ時にもつけたまま利用できる。
充電時以外、常につけっぱなしにしておけるGalaxy Ring。
撮影:山根康宏
そして、24時間取得された運動量、睡眠状態などのデータから、Galaxy AIはユーザーの健康状態を解析し、健康的な生活サポートの提案や、日々の活動の支援する。
AIが提案する「今日の天気は雨、睡眠が不足気味なので早めに家を出て遠回りでもバスに座れるルートを提案する」といったアシストも、ユーザーの健康状態を途切れることなく記録できるハードウェアがあってこそ有用なものとなる。
日本では支払い機能を持ったスマートリングが話題になっているが、日常生活の中で支払いを行うタイミングは1日10回以上も無いだろう。
スマートフォンを使わず決済できる機能は便利だが、自宅に戻れば指にはめておく必要性はなくなってしまう。
Galaxy Ringは機能が少なく、生体データの取得以外は、ペアリングしたスマホのカメラシャッターを切れるなどに限られている。
Galaxy Ringは「生体センサー」であり、ヘルスケアを考えたデバイスになる。スマートヘルスを加速させ、医療機関との連携など新たなビジネスモデルを生み出す製品になるかもしれない。