LIFESTYLE / CULTURE & LIFE

世界11カ国の注目選手をVOGUEが撮り下ろし──2024パリオリンピックへの決意を語る

2024年パリ大会への切符を手にしたオリンピアンたちが世界11カ国から集結。試合前のルーティーンや、パリで楽しみにしていること、アスリートととしての夢を問いかけ、勝利一点を見つめる強い眼差しの裏に秘められた選手たちの素顔に迫った。

カタリーナ・ジョンソン= トンプソン(七種競技 イギリス代表)

ドレス ¥564,300/BALENCIAGA(バレンシアガ クライアントサービス)  カフ ¥3,685,000/TIFFANY & CO.(ティファニー・アンド・カンパニー・ジャパン・インク)

Photography by Delali Ayivi Fashion Editor: Julia Sarr-Jamois  Hair: Amidat Giwa Makeup: Lauren Reynolds  Set design: Louis Simonon Produced by The Curated  Manicurist: Sabrina Gayle  Tailor: Nafisa Tosh Text: Ellie Pithers

七種競技のイギリス代表選手、カタリーナ・ジョンソン = トンプソンが、一躍注目選手となったのは、2012年のロンドンオリンピックのことだった。当時、19歳の若さでオリンピックに初出場すると、母国での大会で鮮烈な印象を残した。それから12年が経った今、トンプソンはすっかりベテラン選手の風格を身につけている。この間、選手生命を脅かしかねないケガや心ない批判をはねつけ、世界王者に2度輝くという偉業を成し遂げた。ファンからは「KJT」の愛称で呼ばれるトンプソンは、リバプール生まれ。あらゆる苦境を克服する中で、トンプソンは心にある思いを率直に打ち明けてきた。その姿は、時には弱いところを正直にさらすことで新たな強さを手にした、新世代のアスリートを象徴している。そんな彼女がこれまでのキャリアで唯一、手に入れていないものがオリンピックのメダルだ─彼女の言う「やり残した仕事」がパリで待っている。

松田詩野(サーフィン 日本代表)

Photographed by Teruo Horikoshi Hair and makeup: Lisa Tateyama Text: Marley Marius

「私がサーフィンを始めたのは、6歳のときでした」と、松田詩野は振り返る。「初挑戦で、ボードの上に立てたんですよ」。そこから先の話は、もはや誰もが知っているサクセスストーリーだ。サーフィンに初挑戦してから14年後、東京から南西約50キロにある海辺の街、茅ヶ崎出身の松田はパリ行きの切符をつかんでいた。エルサルバドルで開催されたISAワールド・サーフィン・ゲームズ2023では、アジアの女子選手の中でトップスコアを叩き出し、出場権を獲得したのだ。自身初のオリンピックで、松田が最も楽しみにしていることは「最高の波に乗ること」だと彼女は笑みを浮かべて明かしてくれた。

サラ・バルゼ(フェンシング フランス代表)

Photographed by Andrea Montano Text: Marley Marius

東京大会では女子サーブル団体のメンバーとしてフランスの銀メダル獲得に貢献した、ストラスブール生まれのサラ・バルゼ。ここまでの主なタイトルとしては、2024年ワールドカップ(ギリシャおよびベルギー大会)での金メダル、ミラノで行われた2023年フェンシング世界選手権、そしてブルガリアのプロヴディフで開催された2023年欧州選手権での銀メダルがある。パリ大会に向けたフランスチームの準備について、「この大会でベストな結果を出すために、これまでの年月、懸命に努力してきました」とバルゼは語る。さらに、試合前に力を与えてくれるという、あるルーティンを明かしてくれた。「音楽を聴きながら、この後の試合でやるべき動きを繰り返すことで、ファイティングモードに入るんです」

ミレーナ・バルダッサーリ ソフィア・ラファエリ(新体操 イタリア代表)

Photographed by Bea De Giacomo Hair: Daniela Magginetti Makeup: Giulia Cigarini Text: Federico Chiara

新体操のイタリア代表選手、ミレーナ・バルダッサーリ(左)とソフィア・ラファエリ(右)はすでに、歴史に残る記録を次々と打ち立てている。22歳のバルダッサーリは、2018年の世界選手権で、イタリアの新体操選手として初めて個人種目で銀メダルを獲得。一方、20歳のラファエリが世界選手権および欧州選手権で獲得した金メダルは、合計38個にのぼる。また、初出場した2021年の世界選手権では、オリジナルのターン技を披露。これは今では彼女の名を冠して「ザ・ラファエリ」と呼ばれている。新体操選手として厳しい規律を課される中でも、二人はお互いに支え合ってきた。家族と離れて生活することも多い、トップレベルの選手には不可欠な心の絆が、二人にはある。

ニハット・ザリーン(ボクシング インド代表)

Photographed by Prarthna Singh Stylist: Tania Fadte. Hair and makeup: Nitu Tamang. Produced by P Productions.

28歳のニハット・ザリーンには、ボクシングのインド代表としての10年以上にわたる経験から身につけたことがある。それはリングの内外で襲いかかる「パンチ」をかわす技術だ。キャリアの初期には、男性が競技人口の圧倒的多数を占めてきたボクシングの道を志したことを非難され、2017年には肩を脱臼する大けがで選手生命が終わりかけたこともあった。ボクシング選手としての栄光を求める道には、多くの困難が立ちふさがった。だが一度試合が始まれば、こうしたことすべては脳裏から消えていくのだという。「リングに入ればいつでも……」と、世界選手権で2回の優勝歴を誇るザリーンは語る。「私の頭にあるのは『ニハット、この試合には何が何でも勝たないといけないよ』という思いだけです」

カツ・マンキ(陸上競技 中華人民共和国代表)

ドレス/SAMUEL GUÌ YANG(www.samuelguiyang.com)

Photographed by Zhen Zhang Stylist: Echo Xiao Hair and makeup: Yang Yi  Produced by C•Side Text: Marley Marius

これまでの限界を猛スピードで乗り越えていくのは、カツ・マンキの得意技だ。東京オリンピックでは、女子100m走で準決勝進出を達成した。これは中国代表の短距離走選手が40年近くなしえなかった快挙だ。26歳になり、パリへ��準備を整えるマンキには母国である中国、そして世界に伝えたいメッセージがある。「私は自分の前向きなところや得てきた知見を次世代のアスリートに伝えていきたいです。そうすれば、次の世代は私の成果を礎として、さらに成長していけるはず。中国の女子短距離走選手が、さらなる高みに上り詰める後押しをすることが私のミッションです」と彼女は断言する。「アジア出身のアスリートが短距離走で大成しないというのは、誤った思い込みです。固定観念に縛られないことが大事です」

シャカリ・リチャードソン(陸上競技 アメリカ合衆国代表)

Photographed by Luis Alberto Rodriguez Fashion Editor: Julia Sarr-Jamois Hair: Key Rentz  Makeup: Sally Branka Produced by Dario Callegher  Manicurist: Janeira Tailor: Kristy Kuehler Text: Marley Marius

シャカリ・リチャードソンの評判は、オリンピック前から最高潮に達している。パリ大会がオリンピック初出場となるリチャードソンは、テキサス州生まれの24歳。複数の競技会で優勝し、すでに「世界最速の女性アスリート」の地位を確立している。2023年のブダペスト世界選手権がその好例だ。彼女は女子100mで10秒65という大会記録を叩き出した。これは歴代ランキングでも5位タイの好成績だ。これほどの記録は才能と練習のたまものだが、24時間365日、生活のすべてが競技に反映されると、リチャードソンは断言する。「陸上のトラックは、毎日が刻まれる、まさに私の人生です。食べるものや飲むもの、うっかり夜更かしをしてしまったときなど、すべてが反映されます。すべての選択が影響するんです」

アーティスティックスイミング チーム(アーティスティックスイミング メキシコ代表)

〈上段左から順に〉Glenda Inzunza, Jessica Sobrino  〈中段左から順に〉Nuria Diosdado, Regina Alférez, Itzamary González, Samanta Rodríguez, Daniela Estrada  〈下段左から順に〉Pamela Toscano, Joana Jiménez, Fernanda Arellano

Photographed by SeoJu Sittings Editor: Carina Orellana Makeup: Evelyn Esmeralda Corona  Produced by Yamileth Melo Text: Marley Marius

「私たちの多くは、10年以上も一緒に暮らしている。血のつながった家族よりも、(お互いに)よく顔を合わせている」そう語るのは、今夏、1996年以来初めて一斉にオリンピックに出場するメキシコのアーティスティックスイミングチームのメンバー、サマンタ・ロドリゲス(29)だ。(その間、メキシコはソロかデュエットの種目でしか出場権を獲得していない)その集中力は、いくつかの素晴らしい結果をもたらしている:昨年、日本の福岡で開催された2023年世界水泳選手権大会で銀メダルを獲得したメキシコは、チリのサンティアゴで開催されたパンアメリカン大会で2つの金メダルを獲得し、パリへの出場権を確保した。「オリンピックへの出場権を獲得するということは、3歳のレジーナがとても遠くに見ていた夢を叶えるということです」と、同じく水泳選手のレジーナ・アルフェレス(26歳)は付け加える。メキシコの国旗を背負うことは、毎日私を奮い立たせてくれる」とヌリア・ディオスダド(33歳)は言う。

ルオ・ジャーリン(テコンドー チャイニーズ・タイペイ代表)

Photographed by Troy Wang Stylist: Joey Lin Hair: Reeve Chen  Makeup: Eddi-Sheng Hsu Set design: Tung Yu Ting  Produced by Nelly Yang Text: Marley Marius

東京大会でオリンピックデビューを果たしたルオ・ジャーリンは、19歳の若さで女子57㎏級の銅メダルを獲得した。そして今、22歳になったジャーリンは、この夏の大会で金メダルを目指す。だがそれだけではなく、フランスの首都パリを訪れるからには、やってみたいことがあるという。「パリの街並みが好きです。景色がとても美しくて。でも一番大切なのは買い物ですかね」とジャーリンは屈託なく笑いながら語る。さらにパリと言って思い浮かぶものといえば、世界に名を馳せる美食の数々だ。「大会後は、本場のフランス料理も味わってみたいです」と彼女は、夢を膨らませている。

ミサ・ロドリゲス アレクシア・プテジャス イレーネ・パレデス オルガ・カルモナ(サッカー スペイン代表)

アディダス・スペイン代表チームのユニフォーム。

Photographed by Yago Castromil Hair and makeup: Mara Fervi using Dior Beauty  Produced by Julieta Sartor Text: Marley Marius

ラ・ロハのミサ・ロドリゲス、アレクシア・プテリャス、イレーネ・パレデス、オルガ・カルモナは皆、そのスポーツに深く根ざしているが、最もインスピレーションを受けるアスリートについて尋ねると、その答えは実に様々だ:サッカーの伝説的選手であるベロ・ブケテ、イケル・カシージャス、ホープ・ソロのほか、レブロン・ジェームズやセリーナ・ウィリアムズの名前も挙がった。なぜか?なぜなら、彼女たちはスペイン初のオリンピック出場権を獲得した女子サッカーチームの一員だからだ。もちろん、オリンピックの金メダルは成功のひとつの指標に過ぎないが。30歳のMFプテラスにとって、より大きな目標とは、「このスポーツを長年楽しみ続けること、そしてファンが私と一緒に試合を楽しむこと」だ。

ジルー(ブレイクダンス ドイツ代表)

スニーカー ¥17,050/NIKE(ナイキ カスタマーサービス)

Photographed by Timothy Schaumburg Stylist: Peninah Amanda Hair: Tobias Sagner  Makeup: Ischrak Nitschke Text: Katharina Fuchs

ブレイキンの世界では「Bガール・ジルー」として知られるサンジャ・ジルワン・ラスル。2024年パリ大会よりブレイキンがオリンピック競技に加わり、選手たちはコンコルド広場で技を競い合う。「自分が持っているものすべてを見せなくてはいけないことはわかっています。だからコーチの仕事をやめて、自分のトレーニングに時間を割いてきました」。そんなジルーに幸運をもたらすお守りは、祖母からの贈り物で、1972年のミュンヘンオリンピックを記念して作られたドイツのコインだ。大舞台にプレッシャーを感じるどころか、このまたとない瞬間を100%楽しみたいと、ジルーは意気込んでいる。そしてもちろん、未来を担う次世代のブレイクダンサーのロールモデルになることも、目標の一つだ。

Translation: Tomoko Nagawa Editor: Sakura Karugane
From VOGUE.COM